「夢から醒めた夢」ってどんなミュージカル?
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「夢から醒めた夢」は、作家の赤川次郎氏が書いた同タイトルの子供向け絵本を原作にした劇団四季のオリジナルミュージカルです。
ピコとマコという二人の少女を主人公にしたファンタジーの物語ですが、決して「子供たちのためだけの作品」というわけではありません。
原作者の赤川次郎氏は、この作品を「子どものための物語を書いたつもりはなかった」と言っています。「夢から醒めた夢」の優しくて心温まる物語は、子供だけでなく大人の心にも深い感動を与えるのです。
夢のように幻想的なストーリー
この世とは別の世界に憧れる少女ピコは、”夢の配達人”と名乗る謎の男に誘われて夜の遊園地に行きます。そこで出会ったのは、美しくてどこが寂しげな少女のマコ。なんと彼女はこの世の者ではなく、ピコが「一度は会ってみたい」と憧れていた幽霊だったのです!
交通事故で命を落としたマコは、自分の死を受け入れられずに悲しんでいる母親のことを心配して、霊界へ行けずにさまよっていました。「母を慰めてあげたい」というマコの優しさに感動したピコは、マコと1日だけ入れ替わって代わりに霊界へ行く約束をします。
霊界空港にやってきたピコはさまざまな事情で命を落とした霊たちと出会い、交流していくのですが、やがてマコから預かった大事なパスポートに異変が起こってしまい・・・。
ファンタジーの魅力にあふれたストーリーは、小さなお子様でも楽しむことができます。
優しい歌詞とメロディーが紡ぐ印象的な音楽
「夢から醒めた夢」を観た後に印象に残るのが、優しさにあふれた歌詞とメロディーで彩られたミュージカルナンバーの数々です。
代表曲「愛をありがとう」は、小学校の音楽の授業でも歌われる親しみやすいナンバー。この曲は同じメロディーで、歌詞を変えて2回劇中で歌われています。
1度目は、ピコと霊界空港の霊たちが互いを思いやって歌う「みんなのために」。2度目は、ピコが霊たちへの感謝の思いを込めて歌う「愛をありがとう」。
どちらも人を思いやる優しさにあふれた歌詞が伸びやかなメロディーに合わせて歌われ、涙を誘うことも違いなしです。
30年以上にもわたる上演の歴史
1987年に初めて「夢から醒めた夢」が上演されてから、今年で34年もの歳月がたちます。当初は子供向けの「ファミリーミュージカル」という位置づけでしたが、リニューアルを重ねて全年代が楽しめる一般作品として広まりました。
2000年には演出や衣装に大幅な変更が入り、新演出版として生まれ変わっています。
キャラクター設定も、公演する年代によってさまざま。たとえば気弱な少年の霊であるメソは、当初は「受験に失敗して自殺した男の子」という設定でしたが、2007年の公演からは「いじめられて自殺した男の子」という設定になっています。
世の中の動きや世界情勢に合わせて変更を重ね、より観客が親しみやすいように工夫を凝らしているのです。
2021年5月に公演されるのは、浅利演出事務所版
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今回「夢から醒めた夢」をプロデュースするのは、劇団四季ではなくて浅利演出事務所。浅利演出事務所は、劇団四季の創始者のひとりである演出家の浅利慶太氏が独自の劇団活動を行うために設立した事務所です。
2017年にも、浅利演出事務所の主催で「夢から醒めた夢」が上演されました。浅利演出事務所版は、長年にわたって上演されてきた劇団四季の新演出版よりも、シンプルな演出で物語の良さが大人の心にも響きやすくなっています。
劇団四季版の公演を観に行ったことがある人にとっては、同じ作品でもどこか新しい感覚を得ることができるのではないでしょうか。
衣装が20世紀の初期デザインに戻る
浅利演出事務所版では、ほとんどのキャラクターの衣装が初演の頃の初期のデザインに戻りました。一番目を引くのは、やはりピコとマコの主役二人の衣装の変更です。
ピコは劇団四季版ではピンク色の上着と赤いショートパンツ姿でしたが、浅利演出事務所版では白いブラウスと赤いワンピース姿になり、より少女らしくなりました。
マコは劇団四季版では白いワンピースでしたが、浅利演出事務所版では薄緑色のワンピースに花のついた大きな帽子をかぶっています。
物語の世界にふさわしい、かわいらしくてどこか懐かしさを感じるようなデザインです。
音楽も初期に戻し、時代の色を抑えた曲調
ミュージカルナンバーも、一部曲調が初期に近いものになっています。
その一つが、ピコが霊界についたときに披露される「ここは霊界空港」。2000年以降はヒップホップのような現代的なアレンジが施されていましたが、2017年からは初期の曲調に近いアップテンポに戻されました。
衣装も音楽も、劇団四季版では公演当時の時代の色を加えた演出という印象がありましたが、浅利演出事務所版では初演当時の作品の色を強調しているようです。
変えることで作品の世界を深めている
初期の「夢から醒めた夢」の面影を投影させた、衣装や音楽の変更。原点に戻している部分もありますが、メソや部長が死んでしまった理由、戦争で命を落としてしまった子供たちの霊の設定などは、劇団四季の現代的な部分を受け継いでいます。
浅利慶太氏は、この作品が変化していくことを「変わっているのではない。深まっているのである」と表現しました。
公演回数と年月を重ねて何度も生まれ変わっても、「夢から醒めた夢」の根幹である「思いやりと人と心を通わすことの大切さ」は変わりません。むしろ幕が上がるたびに、深まっていくものなのです。
劇団四季版「夢から醒めた夢」との違い
今年上演される浅利演出事務所版の特徴をご紹介しましたが、こちらでは劇団四季版の「夢から醒めた夢」との違いをより深く解説します。
浅利演出事務所版との大きな違いは、ショーの要素が大きかったこと。観客を楽しませるパフォーマンスが含まれていて、「夢から醒めた夢」のファンタジーの世界が濃厚に表現されていました。
上演前に俳優たちがロビーパフォーマンスを披露
2000年以降に上演された劇団四季の公演では、本編が始まる前に俳優たちが劇場のロビーでパフォーマンスを披露していました。 これは、物語が繰り広げられる夢の世界へ観客をいざなうための演出。あしながのピエロやハンドベル、手回しオルガンの演奏など、舞台に立つ前の俳優たちが道化師に扮して幻想的な世界を表現していました。
人気の高いロビーパフォーマンスでしたが、浅利演出事務所版ではこの演出はカットされています。上演される自由劇場の面積が小規模であることや、短期公演であることを踏まえれば、ロビーパフォーマンスのカットは致し方ないのでしょう。
ダイナミックな「遊園地のパレード」
ピコが夜の遊園地をさまよう「遊園地のパレード」というミュージカルナンバーが1幕にあるのですが、大型劇場で上演された劇団四季版では、このシーンの演出がダイナミック。
先ほどご紹介したロビーパフォーマンスをした道化師たちが舞台に登場したり、一輪車や大型ホイールなどサーカスのような小道具が使われたりしていました。
まるで本当に遊園地のショーを見ているような華やかさ。お子様は特に夢中になってしまい、心をがっちりつかまれたことでしょう。
劇団四季版で目立たせていた要素は、あえて封印した?
劇団四季版の「夢から醒めた夢」のショーアップと比較すると、浅利演出事務所版はややこぢんまりとした印象を受けます。しかし、むしろそれが作品の良さを際立たせているようにも見えるのです。
「夢から醒めた夢」は 、ストーリーテラーである”夢の配達人”の観客を劇場へいざなうセリフと歌から始まります。「劇場は夢を作りだし、人生を映し出す大きな鏡です」というセリフにもあるように、浅利演出事務所版では物語が始まる「劇場」という場所の雰囲気を強調することにこだわったのではないでしょうか。
劇場へ行く前の予習にピッタリなDVDが好評発売中
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劇団四季版の「夢から醒めた夢」は、2011年にDVD化されています。浅利演出事務所版の公演を観に行く前の予習や、演出の違いをチェックするのにおすすめの1枚です。現在も劇団四季のウェブショップやAmazonなどのネットショッピングサイトから購入できますよ。
演じているのは現在も劇団で活躍中の人気俳優たち
DVDは2011年4月に四季劇場【秋】で上演されたものを映像化しています。
この時のピコ役を演じている岡村美南さんは、今も劇団四季で活躍している人気俳優。当時は天真爛漫な少女ピコを演じていましたが、今では「ノートルダムの鐘」のエスメラルダや、「マンマ・ミーア!」のドナなど強くてたくましい大人の女性を好演しています。
ほかにも「アラジン」でジーニー役を演じている道口瑞之さんや「ライオンキング」でスカー役を演じている飯村和也さんなど、現在も活躍中の人気俳優たちが数多くキャスティングされています。
劇団四季好きの方には、特におすすめしたいDVDです。
ロビーパフォーマンスの様子も見ることができる
先ほどご紹介した劇団四季版ならではの演出であるロビーパフォーマンスの映像も、DVDの中に収められています。俳優たちがロビーでパフィーマンスをする様子や、幕が上がる前のにぎやかな劇場の様子も映し出されるので、まるで劇場にいるような臨場感を味わえますよ。
ミュージックチャプターで、耳に残る音楽を何度でも
DVDにはミュージックチャプターがついていて、劇中のミュージカルシーンだけを選んで観ることができるようになっています。「愛をありがとう」や「二人の世界」など、「夢から醒めた夢」には思わず口ずさみたくなる名曲がたくさん登場します。
DVDがあれば美しい楽曲を何度でも楽しむことができますよ。
実際に公演を観た思い出として、劇場に足を運んだ後にDVDでもう一度「夢から醒めた夢」の世界を味わうのもおすすめですよ。
※現在、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、多数の演劇が上演中止等の措置をとっています。観劇の際は、各種ホームページ等から情報を得て、マスク等感染予防をした上で劇場へ足をお運びください。